変な客 - 狂乱のおじさんロッカー編
お酒を飲んでいる場なのだから、いてもよさそうなのに実はあまり見ないのが「変な客」ですね。泥酔していて変、とかスケベ過ぎて常軌を逸している、とか、キャバクラに来ているのに眠っているだけで妙、とか、そういう客ならたまに見ますけれど、本当の意味で「変な人」というのはそうそう 見られるものではありません。私自身あまり見たことがありません。
先日、私の友人が吉祥寺のSという店で、その決定版とでも言うべきお客さんを見たのだそうで、それを報告しておきたいと思います。彼はそのお客さんの対面に座っていて、一部始終を見た後に電話をくれたので、伝聞とはいえ、かなり正確なところだと思います。8月8日前後のことです。
どうやら新規のお客さんらしいのですが、私の友人が入った時点で、すでに2時間いたのだそうで、友人が入った頃に2回目の延長に入っている頃だったそうです。 風体は長髪のロッカー風だったそうですが、若くはなく、いいとこ、35〜6、下手すると、40代という感じだったそう。友人が入店して、しばらくして、彼は「CD聴いていいかな」と女の子に訊き、もちろん女の子も否定する理由もないのでOKを出していたそうなのですが、そのまま彼はCDウォークマンを出してきて、何やら音楽を聴き始めたのだそうです。音楽のジャンルは不明です。
そのまま目を閉じてしばらく音楽に聴き入っていたとのことで、まあ、ここまでならどうということもないのですが、そのうち、突然、閉じた両目から涙が溢れてきました。。
友人が「何事か」と思って、注視していたら、彼は唐突に立ち上がり、多分リズムに合わせてだと思うのですが、その場でゆっくりと身体を揺すり始めました。女の子も困惑して見ていると、突然、彼は「きみも〜ぼくの世界に〜入ってこないか〜い」と大声で歌い出したのだそうです。
更に、歌い踊りながら女の子に手を差し出しました。
ちなみについていた女の子は私の友人も知っている人で、水商売歴の長いプロ的な女性で、酔っぱらいの処理にはかなり慣れている人なのですが、それでもかなりの困惑ぶりを見せていると、彼はいつまで立っても手を差し伸べて来ない女の子に腹を立てたのか、ウォークマンのヘッドフォンを突然外し、「そういうつもりなら、もういい!」と言って、女の子を睨みつけました。これはちょっとヤバいかな、と友人もハラハラしたそうです。
「きみがそういうつもりなら……」。
ボーイたちの間にもちょっと緊張が走ったことでしょう。
「きみがそういうつもりなら……」。
彼は「きみがそういうつもりなら……」と続けます。
何をするつもりなのか、と、友人も固唾を飲んで見守っていたところに出てきた言葉は、 「きみがそういうつもりなら……オレはトイレに行ってやる!」 でした。
何だか分かりませんが、そのまま怒って(?)トイレに行った彼は、しばらくして戻ってきたのですが、トイレから帰ってくる時には小さな声で「東京音頭」を歌い続けて、フロアの真ん中で動かなくなりました。
「ちょいと東京音頭、よいよい」と呟きながら、自分の席を見つめていたそうです。
と思ったら、突然、彼はフロアに突っ伏すように倒れ込みました。女の子もボーイも「大丈夫ですか?」と近づくと、彼はグッと腕を立てて起きあがったのですが、目からは涙、鼻からは鼻水がダラーッとフロアにこぼれていました。
この辺りになると酔っぱらいの範疇なのかどうか知りませんが、女の子は「ほ〜ら、鼻出ちゃってるよお」と言って、おしぼりで涙と鼻を拭いてあげていたのだそう。しかし、溢れる涙は止まりません。
そして、驚くことにまたも延長。結局、4時間お店にいたのだとか。素直に延長させるお店も大した度胸だと思いますが、その後も混乱ぶりは続いたそうです。まあ、泣いて踊って鼻水を垂らすというだけなわけで、暴力をふるっているわけでも、セクハラをしているわけでもないので、決して悪質な客というわけではないのですが、友人曰く「あんなに緊張して飲んだのは久しぶりだよ。ヤクザが正面で飲んでいてくれた方が、まだマシだよ」と言っていま した。
いろんな人がいる。
そういうお話でした。