フィリピンナイト

  

philipin.jpeg

私は、いわゆるフィリピンパブというものにはほとんど、いや正確には一度も行ったことがありません。歌舞伎町にある得体の知れない外人パブには行ったことはありますが、ここは白人女性オンリーの店で、大変困惑した記憶が残っているだけです。


それが先日、外国人たちのいるパブに飲みに行きました。そこでのお話です。

この店は正確にはフィリピンパブではありませんが、在籍している女性の8割方がフィリピン系で、あとは中国の方や、なぜか日本人もい るというアジア混合スタイルのお店で、体裁としてはキャバクラと同じです。客引きに声をかけられて入ったのですが、なぜ入ったのかというと、客引きの提示 してきた料金がとにかく安かったからです。

「最初の60分2千5百円。延長60分3千円。女の子のドリンクは一杯5百円」

と言ってきたのです。
私自身はこの言葉をあまり信用してはいませんでした。時間も夜の11時過ぎです。いくら何でも安すぎます。でも、その時は手持ちもいくらかはあったし、 カードもあるし、何より飲んでいた帰りで酔っ払っていました。未知のアジア系パブに入っても悪くはないだろうと思ったわけです。

店は大混乱でした。さほど広くはないその店内はほぼ満員で、客たちはカラオケを歌ったり、フロアで踊ったり(!)しているのですが、普通のキャバクラとは違って、たかがカラ オケひとつ歌うのにも横にピッタリと女の子が連れ添っています。そして、誰かがカラオケを歌っている、そのすぐ横では、お客と女の子がなんという種類のダ ンスなのか知りませんが、華麗にダンスを繰り広げています。そして、そこにまた別のアベックが踊りながら乱入したりして、狭いフロアは混沌とした様相を呈 していました。

私はしばらくは呆然とそのカオスを眺めていましたが、横に女の子がすぐに来ました。フィリピンの女性です。

「こんにちはー、アグネスいいます(仮名)」
「あー、どうも」
「はじめてネ」
「ええまあ」
「歌わないネ」
「いやー、まだ来たばかりだし」
「踊らないネ」
「それはちょっと」
「みんな踊りたがるネ」

この人はほとんどの語尾に「ネ」がつきます。

「日本語上手だね」
「そうかネ」
「日本は長いの?」
「5ヶ月ネ」
「5ヶ月でそんなにうまくなる?」
「なるネ」
「すごいなあ」
「なんか飲んでいいネ」
「いいよ」
「心配ないネ。一杯5百円ネ。お客さんの料金、2千5百円、ドリンク入れて3千円ネ。タックスついて3千3百円ネ」


自分の店のシステムにはかなり精通しているようでした。
しばらくは普通に談笑していました。とてもノリもいいし明るい方で、日本に来た経緯とか自分の田舎の話をしてくれていました。
しばらくして、

「友達呼んでいいネ」
「友達?」
「あそこ(別の席)に座ってるけどイヤがってるネ」
「でも、そんなこと勝手にしていいの?」
「いいネ」
「いいなら別にいいけど」
そして、フィリピンの同郷だという、その友達も席にやってきました。

「友達もなんか飲んでいいネ」
「いいネ」
「嬉しいネ」
「友達すごくいい子ネ」
「どういいネ」
「おとなしくて美人ネ」
「きみも美人ネ」
「嬉しいネ」


私にもいつの間にか「ネ」言葉がうつってきていました。
そして、それよりも何よりも驚いたのは酔えば酔うほど、それまで感じていた場の違和感が私から消えてきていたのです。
気付けば、私はフロアに出て、その子と踊っていたのです。

philipinena-2.jpeg

その時、フロアにいた別のお客さんもこちらに微笑んで「4人で一緒に踊りましょう!」と宣言してきました。更に、そのお客さんは自分の連れの友達も連れてきて、フロアでは6人が踊り乱れるという大狂乱状態に陥っていきました。延長の時間が来て、ボーイさんは「延長しても7千円ですよ」というので(もう私もなんにも考えていない)、延長して、そのまま飲み続け、騒ぎ続けました。

結局、2時間騒ぎに騒いで、他のお客さんたちと席をくっつけたり、ちょっと普通のキャバクラでは考えられないざっくばらんな雰囲気の中で時間は過ぎました。
正直にいえば、これがまた非常に楽しかったんですね。店にもよりますけれど、堅苦しい雰囲気のキャバクラなどではちょっと味わうことのできない、何だか田舎のスナックでハシャいでいるような気分を体験できました。

ちなみに料金ですが、これに関しては半ば諦めていたのですが、客引きやボーイさんの言ったことは真実だったようで、2時間いて、女の子のドリンク3杯で7千7百円でした。
また行くかどうかは微妙ですが、普通のキャバクラに飽き始めている時などには、これも悪くはないなと素直に思った一夜ではありました。

帰り際にはすっかり私も「ネ」語尾になっており、

「今日は楽しかったネ」
「良かったネ」
「また来ると思うネ」
「待ってるネ」

と会話を交わして店を後にしたのでした。