キャバクラタワーでの死亡遊戯
吉祥寺の南口にすべてがキャバクラで埋まっている6階建てのビルがあります。
1Fは出入口で、2Fから6Fまですべてがキャバクラで埋まっています。料金的にもどの店も大差ないし、同じビルにあるわけなので、広さもほとんど同じです。女の子のレベルも基本的には大差ありません。
混み方もまあ同じ、という、本当に同じようなキャバクラがひしめいているビルなのですが、どういうわけか、私はこのビルとは相性もいいし、思い出も多く、また引きもよいという事実があります。
お店とではなくて「ビルとの相性がいい」と私は書きましたが、つまり、この中の複数店に馴染みの女の子がいるのです。過去まで遡れば、最近は切ってしまったという子を含めると、2、4、5、6Fに指名できる女の子がいます。別に目指してこうなったわけではないのですが(目指すものではありませんね)、なぜかそうなってしまっています。
またその子たちの出勤曜日、時間、本人の容姿レベル、性格、営業姿勢、共にほとんど大差ないという、クローンたちと交互に相手をしているような状況なのですが、いずれにしても、どの店にも同じ頻度で行くほどの資金的な余裕はありません。
いつかは絞らなければならないわけです。
ちょうど今その時期だといえば、その時期ではあります。
先日、6Fのお店に久しぶりに行きました。「F」というチェーン店で、中野にもあったと思います。ここは経営元に関しての噂はいろいろとありますが、それはまあいいです。お店は普通に優良で、店の作りも落ち着いているし、女の子も性格の素直な子が多い感じがします。そこでは身長が170cm近くあるのに、体重は40kg程度しかないという拒食症スレスレの女の子と飲んでいました。ヤセ過ぎの点を除けば、とてもいい子で、楽しく過ごして帰ろうとしました。
私は6Fでエレベーターに乗り込みました。エレベータはひとつ降りたところで止まりました。
すると、5Fで帰るお客さんが乗り込むためにドアが開きました。そして、そのドアの向こうには「F(上のFとは別です)」の顔見知りの店長とボーイが立っていました。
「あ」
と店長は私を認識し、片足で「ガッ」とエレベータの閉扉を阻止しました。
「どうしたんですか?」
「いや、上に……」
「○○さん、いますよ」
「いや、今日はちょっと別口だから」
「○○さんに言いつけますよ」
「いや、だから……」
エレベータには帰るお客さんも乗っているというのに、店長は片足をエレベータのドアに引っかけたままです。
そのお客さんを見ると、気の弱そうな人で、特に怒っている様子もなかったのですが、そのせいなのか、エレベータ前の客引き戦争は長引きました。
指名である以上、値引きは効かないし、結局はボトルを一本つけてくれるということで、私は行くことにしました。
ちなみに私は先日の桜花賞で血まみれになっていて、実際はキャバクラどころではないはずです。
それでも誘惑に乗ってしまう自分の意志の弱さを嘆きましたが、しかし、決めてしまった以上はルンルンと入店しました。
多分、1分以上はエレベータで待たされたであろうエレベータのお客さんに
「すいませんでした」
と私が謝り(店長も少しは謝りなさい!)、私は入店しました。
この店は先日、私が「指導」を受けた店です。
女の子は突然の来店にとても喜んでくれて、ここはここで楽しく過ごしました。結局、カードを使ったのですが、延長はせずに出てきました。
そして、今度はちゃんとエレベータに乗り、下まで降りました。ところが、ビルを一歩出た途端、2Fの「S」のボーイさんが立っていました。
「あれ、いらっしゃってたんですか?」
「あーまあ……。いやー、実は違う店なんだけど」
「来てくださいよー。Hさん、いますよ」
「あー、いやー」
薄々とは感じていました。
私はすでに酔っている、と。
自分を律する気持ちなどすでになくなっている、と。
気付くと、私は「S」の店内にいました。
「S」の女の子は典型的な肉体派であることに加えて、出身県が同じ(北海道)子で、楽しくはありました。
この店は平日は午前1時閉店という早い時間に終わる店で、入店したのが12時ちょっと前だったので、結局、延長せずとも閉店までということになりました。
店の照明がパーッとつきました。
「あーもう終わりかー。アフターでも行くかー」
「アフター? うーん、どうしようかな」
「あ……いや……ちょっと待て」
「どうしたの?」
「か……」
「え?」
「いやいや、何でもない。明日早いから今日はいいや。また今度ね」
つまり、アフターする金など微塵も残っていなかったのです。
ブルース・リーの映画「死亡遊戯」で、ビルの上に行けば行くほど敵は強敵になるんですが、ブルース・リーはそのすべてに勝利を収めました。
しかし、私はブルース・リーではありません。
そのすべてに負けたといっても過言ではないでしょう。
負けた原因はただひとつで、自分の意志の弱さです。
関係ないですが、帰りのタクシーの運転手さんが72歳(わざわざ証明に免許を見せてくれた)のとても元気なご老人でした。
「東京の道ならどんな細い道でも全部知ってるつもりですよ」
「すごいですね」
「いやいや、生きている限りは人間元気に働かないと」
「素晴らしいですね」
「最近、曾孫もできましたからね」
「運転手さんには定年はないんですか?」
「いや、もう定年はして、今は立場としてはアルバイトなんですけどね」
「頑張ってくださいね」
「死ぬまで頑張りますよ」
私の場合は死ぬまで頑張っていいものかどうか、大いに悩むのでありました。