先日、用事があって「武蔵小金井」という街に私はいました。
東京の人でなければ、どこのどんな所だかわからない街でしょう。いや、東京の人でもどこのどんな街だかわからない人が多いかもしれません。武蔵小金井自体
は私の住む西荻窪から10分程度のところにある街で、遠い場所でもなければ、未知の場所というわけでもありません。しかし、そこにわざわざ何かをしに行く
ということは、東京に住んで20年近くまったくありませんでした。
ちなみに、街自体は決して小さな街というわけでもなく、駅前には東急デパートなどもあり、私の住んでいる西荻窪などとは比較にならない駅前の繁華の様相を呈しています。
しかし、このあたり一帯の街の特徴として「駅前だけは栄えているが、5分も歩けば単なる住宅街」という掟があります。
この街もその通りでした。
まあ、しかし、ここは武蔵小金井という街自体を論評する場ではありません。
その武蔵小金井という街で用事が終わったのが午後9時過ぎでした。
私は知人(Y君としておきましょう)と一緒だったのですが、何気なく駅へ向かおうと歩いていると、
「キャバクラどうっすか?」
という声がかかってきたのです。
声の方を向くと、そこにはコートを着た客引きが立っていました。
そう。
この街にもキャバクラがあったのです。
しかも、見回してみると、キャバクラか、あるいはそれと似た系統のお店のものと思われる看板がいくつかあります。
「へえ、キャバクラあるんだね」
と、私はY君と話していたのですが、Y君の機動力は私よりはるかに優るものでした。
彼はいきなり、
「いくら?」
と、その客引きに聞いていたのです。
「今だと4千円でやらせてもらってます」
と客引きの人は言いました。
「4千円か……。3千円じゃダメ?」
と、我々は彼に問うてみましたが、その答えはNoでした。
しかし、午後9時を回っての4千円は特に高い金額ではありません。
「行ってみる?」
「行ってみますか」
ということで、我々は未知の武蔵小金井のキャバクラへと入ったのでした。
正直言って、私は中野や吉祥寺の安キャバと同じ、スナックを改装した程度の暗い内装、安い装飾、ダメな女の子たち……。そんなものを考えていたのですが、
予想を超えて、その店は非常に綺麗でした。
壁も床も白。正確にいうとベージュで統一されていて、そこに暖かい間接照明を当てています。フロアを取り巻くようにボックス席があり、
フロア中央にはクリスマスツリー。
こういうクリスマスツリーは店によっては非常に寒々しく映るのですが、白い店内の雰囲気の中で、それは美しく映えていました。
やって来た女の子たちもごく普通に可愛い女の子たちで、突出している部分はないにしても、
「やべえよ、この店」というほどの問題もない、普通のキャバクラ嬢たちでした。
まあ、この店は普通に良かったということで、特に延長もせずに我々は店を出ました。
「奥の通りに行けばまだなんかあるんじゃない?」
と、Y君が言い出しました。
確かに、通りの奥を見てみると、ピンサロかキャバクラか何だかよくはわかりませんが、何か派手な看板が見えています。
我々は通りの奥に向かって歩き出しました。
すると、そこに「午後8〜9時3000円 9時〜4000円 10時〜5000円」というようなことが書かれた看板が立っていました。
「キャバクラかな」とは思ったのですが、表に客引きも立っていないし、何より扉がなんといったらいいのか一昔前の会員制バーみたいな重々しさを持つもので、
いきなり開けるのをためらわれるような大仰な造りでした。
しかし、もう多少酔っていたY君は全然お構いなしにその扉を開けました。
「ここキャバクラ?」
と訊きました。
すると、中にいたボーイさんから、
「セクシーパブです」
とのお答え。
何と、この街にセクシーパブがあったのです。
しかも、表の看板が正しいとすれば、今の時間でも5000円です。これは、吉祥寺の普通のキャバクラよりも安い金額です。
「15分〜20分ほどお待ちいただきますが」
と言われて、「どうしよう」と我々は考えました。
私としてはセクシーパブでキャッキャッ、という部分より、「この街の5000円のセクシーパブとは如何なるものか」
という好奇心の方が優っていました。
ここは何が何でもとりあえず行ってみよう。
5000円ならダメでもともと。ここに入らないで武蔵小金井に来た意味はない(そんな意味でこの街に来たわけではないが)。
「待ちます」
と私は宣言しました。
一昔前はキャバクラでも待たされるということはありましたが、最近、キャバで「待ち」をくらったことがないので、
入店までフロントの椅子に座って待つというのは久しぶりの体験でもありました。
それにしても小さな店でした。客用の待機席も3人でいっぱい。
フロントでは店長と思しき人間が伝票をチェックしたりしています。
そして、ボーイさんはピアスをした若い青年ひとりだけ。
そのボーイさんが「これどうぞ」と言って、ウイスキーの水割りを持ってきてくれました。
待合い室は畳二畳くらいのスペースで、そこにボーイさんと我々ふたりが気まずく身を寄せ合っています。
ボーイさんの後ろに暗幕のようなものがあって、その向こうが店の内部そのものなのでしょうが、中の様子は窺い知れません。
何だか、東京の街で何かをしようとしているというより、温泉町のストリップ小屋か何かで待たされているような雰囲気が濃厚です。
店長らしき人物は笑顔を忘れてしまったかのように無表情で事務をこなし、
唯一のボーイさんも我々の横にただ呆然と立っています。
「うーん」と、私はいろいろなことを思わずにはいられませんでしたが、
とにかく今は待つしかないのです。
内部の音楽が激しくなり、そして10分ほどしてまた静かになりました。
ワンセットが終了したようです。
ほどなく、暗幕が解き放たれ、中から客たちがガヤガヤ……と書きたいところですが、みんな押し黙って出てきました。
みんな地元の人間のようで、普段着の男たちばかりが目につきます。
そして、交代で我々の入場ということになりました。
店の内部もまた非常に狭くて、ボックス席が5〜6あるだけでした。
セクシーパブというのは、その性格上、多少はどこでもそうなのでしょうが、この店も大変暗い照明で、
店内の色も基本的には黒で塗りつぶされているせいもあり、決して楽しげな感じではありません。
私とY君は別々のボックスに案内されました。あくまでも、女の子と客はマンツーマンということであるようです。
そして、ほどなく女の子がやって来ました。
特に問題もなく、ごく普通の若い可愛い女の子で、厳しい状況を想定していた私には驚きでもありました。
ここから先は普通のセクシーパブと同じで、30分ほどして照明が暗くなり、女の子は上着を脱ぎ……という展開になっていきます。
新宿あたりにあるセクシーパブと何ら変わりません。
それで、この値段(3千円〜5千円 ※ただしキャンペーンだったらしくて、通常は1千円ずつ高い模様)。
同じ街にある普通のキャバクラとほぼ同じ料金だということにも驚きを覚えました。
「う〜む」
私は何となく納得したような納得できないような、複雑な気持ちで店を後にしました。
それにしても、この店が穴場であることに間違いはないでしょう。
店名を出していいものかどうか分からないので、「S」という表記に留めておきます。
その後、我々は吉祥寺に赴き、泥酔に泥酔を重ねて、この日は終わりました。
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